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ここでは、市橋とし子氏をご紹介しましょう。市橋とし子は人形作家で1907年に東京都千代田区神田に生まれ、本名を登志といいます。

1925年に東京女子高等師範学校保育実習科を卒業し、1938年には横浜へ転居、1940年には近くの用品店で見た人形作家である今村繁子氏の人形に感銘を受け、すぐに今村のもとを訪れ弟子入りして人形制作を学びました。戦中から戦後にかけては制作するのを中断していましたが、1949年には偶然今村に再会したことで強く制作を再開するようすすめられ、同年の第1回現代人形美術展において午下がりが特選第一席を受賞し、翌年の同展においてもおしくらまんじゅうという作品が特選の第一席を受賞。

桐朔技法によって身近な生活に密着した人たちの姿を繊細にかつ情緒豊かに表現する素晴らしい作風を確立したそうです。その後、1954年から全日本女流美術展にも出品し、このころはより人間の肌に近い質感を求め、仕上げに和紙を使った紙貼りの手法を取り入れるようになりました。1961年には第8回日本伝統工芸展に出品し、それ以降同展に出品をし続け日本工芸会人形部長や、理事を務めました。

1965年からは彫刻家である金子司氏に師事し、彫刻デッサンや木彫りなどを学んで、人形制作においてもいっそう素晴らしい構成力を見せるようになります。1985年には勲四等瑞宝章を受章し、1989年には重要無形文化財賞を受賞、1994年銀座和光で個展を開催、1998年から翌年にかけては新宿伊勢丹美術館などを巡回した回顧展である市橋とし子人形展　人形はだませない　が開催されます。次男の奥村昭雄氏は建築家であり、四男の徹雄氏はピアニストです。

なお、彼女の代表作としては稲波というものがあります。農作業の後の一服でしょうか、あぜ道で語りある少女の談笑に木々や小川のせせらぎ、蝶や小鳥たちが一緒に語り合っているような作品です。稲穂が茂る秋の収穫時期まで繰り返されるであろう労働と休息、それがまるで人生の縮図のように見えてなりません。