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名塩雁皮紙とは泥を入れて漉く和紙のことで、泥が混ざっているので頑丈であり、時間がたっても色あせすることなく、虫もつかないのが特徴です。そういったことから、屏風やふすま、箔打ち紙や障壁など、また昔は藩札などにも使われていて、何にでも使えることから間にあい紙とも言われていました。また、絵具を塗ると発色もよく、金箔を貼ると輝きが増すということから、江戸時代には尾形光琳などにも使われ、昭和になると日本洋画界の重鎮と言われた、梅原龍三郎も愛用していたそうです。

こんな貴重な紙なので、当然自社仏閣では御用達となっています。たとえば、二条城や西本願寺、桂離宮、日光の御用邸などの、数多くの重要無形文化財の修復に使われています。現在では日本の国宝の修復になくてはならない紙と言ってもいいでしょう。

この紙を漉いている谷野武信氏は2002年に人間国宝に指定された人で、昔は紙漉きの里として知られていた、名塩千軒と言われていた地方の名塩ですが、今やその伝統を受け継ぐのは2軒だそうです。もう1軒は箔打ち紙を作っているだけで、すべての種類の名塩雁皮紙を作っているのは彼の製紙所だけになってしまいました。

なお、この名塩ではかなり硬い岩盤層から4種類の色の泥が採れ、泥を採取して木綿の袋に入れて濾します。このように得た粒子の細かな良質の泥を混ぜ、さまざまな色目の紙に仕上げていきます。通常ですと水に沈んでしまう泥ですが、名塩の山の水を使いますとうまくなじむそうです。この泥を混ぜる技法は日本でもここしかないという珍しい技法で、泥を混ぜて漉くのはかなり困難であり、熟練の技が必要となります。

名塩雁皮紙はローマ法王などにも献上されたことがある紙で、日本が誇る和紙です。その理由は名塩独特の水と泥、さらに人間の知恵があったからこそ生み出されたもので、名塩雁皮紙には自然と暮らしが一体となり、伝統を受け継いできた手触りを感じることができるのです。