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ひと口に馬具と言っても、いろいろなものがあります。鞍、鐙、腹帯、蹄鉄、手綱、ハミ、頭絡、無口、肢巻、胸懸、etc…。馬具とは、人が馬を制御するために使う道具全般を指しますが、その中でも、特に画期的な発明は、鐙でしょう。鐙とは、鞍から左右に1対をぶら下げた足載せ器具です。

歴史的に、鐙が軍隊に登場するのは、中央アジアでは4世紀の始め、中国では4世紀の後半です。日本にも5世紀には、鐙が朝鮮半島から伝わってきています。ヨーロッパで鐙が使われるようになったのが、7世紀からですから、鐙はユーラシア大陸を東から西に、そして、ヨーロッパに伝わったというのが定説です。

現代では、練習すると誰でも馬に乗れるようになりますが、ヨーロッパでは、7世紀になるまで、馬に乗ることは特殊技能でした。なぜなら、鐙がなかったため、馬に乗るためには、両足で馬の胴をしっかりとしめて、制御する必要があり、特に戦闘などで人馬一体となった動きをするためには、子どもの頃から、馬に乗る訓練をしなければならなかったからです。鐙がない時代、馬に乗った状態で、両手を馬から放して、剣や盾などの武具を扱うことは、とても難しいことでした。大人になって、少し練習したぐらいでは、乗りこなせるものではなかったのですね。

鐙が登場するまで、農耕民族の軍隊は、歩兵が中心で、圧倒的な機動力を持つ騎馬民族の騎兵に、散々苦しめられています。古代ローマにおいても、騎兵は貴重な戦力で、そのほとんどを属州、または同盟国の騎馬民族から供出してもらっていたほどです。古代ローマの天才将軍であるユリウス・カエサル（英語名：ジュリアス・シーザー）が、その騎兵隊を騎馬民族が多いガリア地方から得ていたことは、有名なお話ですね。もしも、鐙が古代ローマで発明されていたなら、ローマ帝国は滅亡せず、今でもヨーロッパ全土に、広大な版図を誇っていたかもしれません。鐙とは、それほど偉大な発明だったのです。