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　Nゲージ（軌間9mm、つまりレールの間隔が9mmの鉄道模型規格）の、安価で品質の高い模型で知られた河合商会。Nゲージのメーカーは国内外にいくつもありますが、河合商会は国鉄（日本国有鉄道）時代の貨車が専門で、私有貨車を所有企業別に（タンク車なら石油元売会社や、石油製品・化成品の専門輸送会社）取りそろえたほか、有蓋車・無蓋車、ホッパ車、冷蔵・冷凍貨車、除雪車、貨物列車の最後尾に連結される車掌車など、屈指のラインナップを誇っていました。2012年末に惜しまれつつ廃業した後、河合のNゲージ製品は鉄道模型専門店ポポンデッタが引き継いで販売しています。

　車両だけでなく、鉄道模型レイアウト（車両を走行させることのできる情景模型）やジオラマ用の〈情景モデルパーツ〉も作っていました。地面や山肌の質感を表現するカラーパウダー、水面を表現するための波板シート。針金を芯にした、樹形を変えられる樹木シリーズ。ポポンデッタのオリジナルジオラマ素材〈ぽぽらま〉も河合商会の製品で、コーヒーの木、イチョウ、ポプラ、南洋樹木、芝桜、菜の花やラベンダーの畑、朝顔の生垣、野の草、畑の畝を模した地面シートから、雪化粧した針葉樹や樹氷に至るまで、たいへん凝ったものがありました。

　そのような素地の上に、河合商会は一風変わったプラモデルも出しています。日本の原風景を、小さな四角いトレイの中にこぢんまりと収めた形の情景キット、〈箱庭シリーズ〉と〈風物詩シリーズ〉です。

〈箱庭〉のベースは22×16cmに規格化、スケールは一定しませんが1/60から1/100ほどで、茅葺屋根の家と案山子の立つ田んぼからなる〈農家〉、小さな渡し船の船着き場と、よしずを立てた茶屋のある〈渡し場〉、井戸や野点の風景も見える〈茶室〉、東屋、牧場、金閣寺、五重塔などがありました。〈DX水車小屋〉はモーターライズされて水車が回り、〈田舎の駅〉〈山の温泉宿〉の2種はNゲージ規格の縮尺（1/150）でした。このシリーズで面白いのは、モデルキット上で本物の草を育てられること。ベースの一部に別売りの苗床を敷き、水を含ませて種をまくと、チモシーグラスやクローバーなどが芽生えて5cmほどに伸び、これを田んぼや草地に見立てるわけです。

「日本人の心に生きている」と銘打たれた〈風物詩シリーズ〉は、ベースサイズ16×9cm。こちらはスケールが決まっていて、1/60は、めし屋、そばや、すし屋、うなぎや。茶みせに居酒屋、駄菓子屋、佃煮や。船宿に水車小屋といった家屋の類。おでん、たこ焼、そば、石焼いも。金魚や、風鈴やなどの屋台店、紙芝居屋の自転車などは1/25。このほか芝居小屋や銭湯もありました。

　オーロラ製のモンスターシリーズなどとは対極にありそうな、郷愁をくすぐるプラモデル。今も人気は高く、〈箱庭〉〈風物詩〉両シリーズの一部は、マイクロエース（旧アリイ）が自社ブランドで再発売しています。