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人間は古くから鉄に親しみながら文明を育んできました。古墳時代には鉄斧のほか、鋤や鍬などの発達で日本の農耕文化は大きく発展し、儀礼などにも用いられたことから副葬品として鉄器が出土されています。そうした鉄器の中で現代に至っても好まれて使われているのが南部鉄器で、岩手県南部鉄器協同組合連合会の加盟業者によって造られています。

南部鉄器の始まりは、平安時代後期に奥州藤原氏のひとり藤原清衡が近江国から鋳物師を招いたことが始まりです。現在の岩手県水沢市にあたる羽田では北上さん力砂鉄や木炭、北上川からは質の良い砂と粘土が豊富に得られたことから、鋳物業が栄えました。奥州藤原氏が平泉に移ると、鋳物師たちも同行し、そのためか藤原氏の遺跡からは鋳型が出土しています。室町時代初期には徐々に鋳物師たちが定住していき、江戸時代には仙台藩の庇護を受けて鉄鍋や鉄釜などを制作するようになります。

そうした鉄器の中でも鉄瓶は400年以上前から手作業で作られた伝統工芸品のひとつです。表面には錆止めとして漆が塗られており、内側は「金気止め」と呼ばれる備長炭による焼き付け処理が施されます。この焼付処理によって酸化皮膜は鉄瓶を使うにつれて徐々に剥がれていくのですが、湯の中に混じってミネラルやカルシウムに沈着し、まろやかなお湯を沸かすことができるようになります。外面には鉄と漆と緑茶による黒、鉄と漆による赤で色彩が施されますが、その作業はすべて手作業で行われるため、独特の質感を楽しむことができます。

日本の伝統工芸である鉄瓶ですが、昭和を中頃過ぎるとやかんや西洋式のケトルが広まり鉄瓶は見られなくなってきました。しかし徐々に古き日本の技術が見直され、鉄瓶の人気が広まってきています。鉄瓶で入れるやわらかいお湯でいただくお茶のおいしさからも、茶道に興味を持っている人には大変人気があるようです。その独特の鉄瓶の存在感を味わうのもまたよいかもしれません。