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茶碗は、たてられた抹茶をいただいて飲むための器です。茶席において主役級の役割を果たす茶碗は、その形状や素材、大きさにおいて多岐にわたり、現代に至るまで非常に多くの作品やバリエーションを生まれてきましたが、それらを分類することは日本における茶道の普及や拡大の歴史と密接に関係しています。中国から茶道が伝来した後、貴族や高級武士が茶をたしなんだ室町時代にかけては、道具である茶碗は唐物（からもの・中国製）の陶磁器が最上級であるとされ、青磁、白磁、鉄製黒釉の精巧なつくりの器が天目台（てんもくだい）と呼ばれる台座に載せて使用されました。この時期の茶碗は多くが高台（こうだい・鉢や皿など器底部の基台）が小さくすぼまっているため天目形と呼ばれます。

その後、日本で茶道が次第に広まり「侘び寂び」の表現が重要視されるようになると、同じ中国製の茶碗でも凝った細工の華美な高級品ではなく、ごく簡素なものに「粗末なる美」を見出して貴重視するようになります。この日本の美術や文化の根底にも共通する独自の流れは、至極自然に朝鮮半島産の高麗茶碗の一大流行へとつながり、もともとは飯碗としてつくられた鉢のおおらかさや枯れて寂びた表情に「道具の美」としての芸術性を見出し、多くの茶人たちが高麗茶碗を愛用したため現在でも茶道における格付けは非常に高いものとなり、井戸、熊川（こもがい）、雨漏（あまもり）、伊羅保（いらほ）、斗々屋（ととや）、三島、刷毛目、粉引などで多くの名品が残されています。

また、現在の茶道の形式や流儀の基盤を築いた千利休以後、古田織部らが茶の湯のリーダーになると、茶人の好みに合わせて朝鮮半島で茶碗を焼かせる注文茶碗へと主流が移りました。その時代になると、中国や朝鮮半島経由で渡来した陶磁工房の日本国内の技術レベルも非常に高い域に達していたため、この人気や需要に応える形で、国焼（くにやき・日本製の陶磁器）の流行が急速に広がります。

千利休が侘び茶の粋として直接指導してつくらせた京都の楽焼（らくやき）をはじめ、桃山時代以降になると全国各地の窯で、瀬戸、織部、志野、唐津、染付、京焼など表現色豊かな茶碗が一斉につくられ、この時代の拡大が江戸時代藩政期の技術隆盛へとつながり、現代日本の窯業のベースにもなっています。いわば茶碗のトレンド推移は、日本の伝統工芸の歴史そのものと並走してきたと言えます。

なお、茶碗を使用する際、茶をいただく時には、女性は染みの原因となる口紅がつかないようあらかじめ茶席の前に拭き取ります。また、使用後に洗う際にも、染みを防ぐために洗剤は使わずぬるま湯で洗うことが基本です。茶の湯の席では指輪や腕時計など器を損なうおそれがあるアクセサリー類を外すことがルールとされているように、茶碗をはじめ茶器類はつねに丁寧に注意しながら扱う心構えが重要です。