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茶釜は茶席においてお湯を沸かすための道具で、「釜ひとつあれば茶の湯はなるものをよろづの道具をもつは愚かな（茶釜が一つあれば茶の湯は成立するものなのに、多くの道具を持つのは愚かなことだ）」と言われるように、茶道具の中でも特別な位置付けの道具です。茶会を開くことを「釜を掛ける」と呼ぶのもそれらをうまく象徴しています。茶道具としては地味な存在で際立って注目される機会は少ないものの、単純に見える茶釜の造形には茶人たちの美意識が込められています。

茶釜は鉄製で、形や大きさなどにある程度の幅があります。茶碗や茶入など他の多くの茶道具において中国産や朝鮮半島産のものが多く使用されているのに対して、茶釜は全て日本製で、産地として有名なのは、福岡県の芦屋、栃木県・佐野産の天明（てんみょう）、京都などが挙げられます。江戸時代以降は盛岡や金沢、関東など他の地方にも釜製作が広がりました。釜を製作する職人は、釜師と呼ばれています。風炉（ふろ・釜を沸かす炉で、だいたい5月初旬から10月末まで使用する）用には比較的小さな釜や口づくりの狭いものを、炉（ろ・茶席の床を四角く切り灰を入れ、火を焚いて釜を沸かす）用にはどっしりとした大きめの釜が使用されます。

茶釜の蓋は一般的に唐銅（からかね・銅と錫の合金）製が多く、次いで釜本体と同じ鉄製の共蓋が使用されています。釜の構造は、口、肩（口から本体部分にかけて張った部分）、胴、底などに大きく分けられますが、口づくりの形や、本体地肌の質感、地文（霰模様や絵柄などの本体の文様）、蓋やそのつまみの形状などによって多種多用なバリエーションが見られます。

茶釜を扱う際は、直接表面の地肌や地文に手で触れないように注意し、上げ下ろしするときには鐶付（かんつき）に鐶を取り付けるか、釜の中に手を入れて持つようにします。また、鐶を掛ける場合は取り外したりする際に周囲をこすらないように丁寧に扱います。茶釜は急激な温度変化を与えるとそこが薄くなったり抜けたりすることがあるため注意が必要で、使用後はぬるま湯をかけながら釜洗（かまあらい・専用のシュロ製のたわし）で底の汚れを落とし、全体の水分を布巾で押さえたら、炉か風炉の余熱で乾かしてから片付けます。