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19世紀アール・ヌーヴォーの寵児となるエミール・ガレは、1846年フランスのナンシーで父シャルル・ガレと母ファニーの間に生まれました。父シャルルはナンシーにある店に陶磁器とクリスタルの製品を卸しており、1845年にはその店のオーナーであるファニーと結婚しています。

こうした環境から、ガレは陶磁器やガラスの仕事に親しむようになっていました。修辞学や文学、植物学などをナンシー帝立高等中学校で学び、シャトーブリアンやユーゴーの文学には特に夢中になりました。その中でも植物学の研究は晩年になっても続け、ガラス工芸家としての仕事とは別に植物学者としての功績も残しています。1865年にはドイツのワイマールに留学、音楽と鉱物学を学び、父親の会社を引き継ぐことになります。またフランスのマイゼンタールに滞在し、ガラス技術を習得、ガラスやクリスタル製品のデザインをするようになりました。

ガレが一躍陽の目を浴びるようになるのは1878年のパリ万国博覧会のことです。独自に開発した「月光色ガラス」を出品、酸化コバルトによって淡青色に発色する素地は話題になり、銅賞を受賞しました。日本にも造形が深く、農商務省完了でだった高島得三と交流を持ち、日本の文様や植物などを学びました。高島は水墨画を得意としており、ナンシーでも400点ほどの水墨画を描いています。高島はガレに2点の水墨画を贈っており、これを契機として水墨画的なぼかし表現を伴う黒褐色のガラスの作品を制作するようになりました。1887年に制作されたこのガラス作品は後に「悲しみの花瓶」と呼ばれるようになりました。

当時の美術界はまさにジャポニズム全盛期。象徴主義の影響も相まって、ガレのジャポニズムを取り入れたガラス工芸の作品はヨーロッパに多大な影響を与えました。1904年白血病により58歳のあまりに短い生涯を終えますが、ガレの残したガラス工芸の色彩とモチーフは現代になってもなお評価され続けています。

エミール・ガレは1946年5月にフランス東部のナンシーに誕生しました。父のシャルル・ガレという人は、オリジナルのガラス器や陶器の卸売り業者をしていたそうです。フランス人から見ますと、日本人はエミール・ガレの作品にとても興味があるように見えるそうです。これは嫌味と言えば嫌味なのですが、日本人がどんなガレの作品でも高く買って行くので、高嶺の花になってしまっているといった、本国での事情もあるからでしょう。実際に、ガレの名品が日本に多くあるのも事実なので仕方ありませんね。

エミール・ガレはデッサン力に非常に優れており、特に草花鳥虫の造形を好み、ガラスなどにデフォルトしていることでも有名です。これは、日本人のものの哀れに通じるところがあって、日本画の表現にマッチしているところが多く、エミール・ガレの作品が日本人の心をつかんでいることも事実です。ガレは風光明媚なナンシーという町で誕生し、大自然の中で育ち、またガレ自身も自然をこよなく愛していました。こうしたエミール・ガレの心の中にある自然への強い愛情がその後の作品に反映されていることは事実でしょう。

それと同時にエミール・ガレは日本的な生きるものに対してのもののあわれを持ち合わせており、彼の作品からは日本美術を見ているかのような印象を持ちます。日本人だけでなくこのエミール・ガレの自然を素直に作品に投影するという作風は、切開中のエミール・ガレ愛好家の心をつかんでいることでしょう。

また、ガレが書き遺した園芸に関する文献は多く存在し、イングランドの庭園を訪ねて回ったり、イタリアのアルプス山脈に園芸研究の旅行などをしており、報告分としてまとめています。このことはエミール・ガレの植物へのなみなみならぬ興味の強さを示しています。ガレの素晴しいところは、こういった冷たいガラスという素材に、心を通した魂の表現を表し、人それぞれの心の中に心地いい揺らぎを与えてくれることにあります。