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西洋絵画において画題は一種のヒエラルキーが存在しており、宗教画、神話画、そして歴史画は肖像画、風俗画、静物画、風景画の上位に当たるものとして認識されていました。こうしたヒエラルキーが確立するまでには、古代から近代に至るまでの美術論争が影響しており、日本にも影響を及ぼしています。

古代においては権力者が戦勝を誇示するために歴史画の製作依頼を出すことが多く、古代エジプトではラムセス２世の神殿壁画やアレクサンドロス大王のモザイクなどがその例としてあげられます。その後ルネサンス期になると主題と様式の整理が行われ、イタリアの画家、建築家であるアルベルティによる『絵画論』において歴史を画題として取り扱うことが画家にとって最高の名誉であるとしました。この考え方は17世紀のフランスにまで受け継がれることになります。

代表的なフランスの歴史画家ニコラ・プッサンは《アルカディアの牧人》や《フォキオンの埋葬》などの歴史画の名作を残し、こうした作品が王立絵画彫刻アカデミーの原理として取り入れられることになりました。歴史画家でなければアカデミーの教授に任命もされることはなく、サロンでも歴史画は常に上位に陳列されていました。

18世紀にはいると新古典主義の代表的な画家であるダヴィッドが《ホラティウス兄弟の誓い》といった大画面の歴史画を多数制作します。ダヴィッドまでは厳格な構成を意識することで高貴さ、偉大さを強調する表現が好まれましたが、徐々にロマン主義の流れに入っていたフランスではジェリコーの《メデュース号の筏》やドラクロワの《民衆を率いる自由の女神》などが劇的な画面構成が望まれるようになりました。

日本においてもフランスに留学した原田直次郎や黒田清輝らは歴史画を重視する当時のアカデミーの流れを受けて《騎龍観音》や《智・感・情》を制作しました。古代の流れを受けて徐々に確立していった歴史画を頂点とする絵画ヒエラルキーはこのように日本にも影響を及ぼしていたのです。