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人形作家の平田郷陽という人をご存じですか？ここでは彼の代表作である粧ひという人形について書いて見たいと思います。平田郷陽氏の作品、粧ひをご紹介しましょう。

一本一本手で植えられた丸髷の髪や見事に彫り上げられた桜色の耳、柔肌の透けるような白さにほんのりとほてったほおの赤みなど、生きているとしか思えないほどです。平田郷陽は見る人に職人の伝統工芸と言われた人形を芸術にまで高めた人で、彼の原点は生人形と言われるものにあり、この生人形とは等身大の大きさで、しわの1つに至るまで忠実に再現され、見世物小屋などで人気のあった人形のことです。初代平田郷陽だった父がこの人形職人でした。

彼は小学校卒業後に父のもとで修行を始め、父から人体写実の神髄を徹底的に教え込まれ、人間の骨格や筋肉の付き方などを習得していきました。彼はまた生人形作りを通して確かな造形力を身につけていきます。彼に転機が訪れたのは25歳の頃で、日米親善のためにアメリカから送られてきた人形に日本側より答礼人形というものを贈ることになり、大々的にコンクールが行われました。全国の有名な職人が応募した200体もの人形の中で彼の人形が一位となり、それが若き剛陽が初めて作った一松人形でした。この受賞をきっかけとして彼は人形を芸術として認知させるため創作人形作家として生きる決意をします。

彼はその後新しい人形作りに没頭していき、彫刻の美しさでもなく絵画の美しさでもない、人形だけが持つ美しさとは何なのだろうか、彼はその答えを徹底した写実に見いだしたのです。生きているようにしかとても見えないほどの写実美、これこそが人形だけが持つ美しさだと考えました。そこで、粧ひが生まれたのです。

ただ、この人形にはちょっとおかしい部分があり、彼は着付けの常識を覆し、体が透けるような薄物のひとえを身につけさせました。そこには彼の人形作家の意地が込められていたのでしょうね。せひ、機会があればご覧になって見て下さい。