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きんまとは漆芸の装飾技法のひとつであり、剣と言われる彫刻刀で漆の面を彫って、色漆を埋め研ぎ出した後に、文様を表現するものです。東南アジアやインドにおいてきんまと言われる木の葉によってビンロウジュの実と貝灰を包んで、昔は薬草として、今ではし好品として噛む習慣があり、きんま一式を入れる漆器やその技法のことをきんまと呼ぶようになりました。太田儔は籃胎素地の研究を活かし、日本伝統工芸展において受賞すると同時にきんまの技法の研究も行い、独自の布目彫りきんま技法を駆使して多くの素晴らしい作品を生み出し続けています

彼は学生時代に讃岐きんまの作品を製作した際、ようやく讃岐人になったと言われたそうです。漆の赤はもっとも彩度の高い色として知られており、黒は最も明度の低い色として知られています。かけ離れた色を組み合わせることにより、独特の味わいを醸し出すのです。

彼は昭和6年に岡山県の大崎という場所に生まれ、昭和28年に磯井如真が岡山大学教育学部特設美術科の教授になった時、その内弟子として入学し、本格的に漆芸の道に入ったそうです。きんまは江戸時代の後期に高松藩の玉楮象谷という人が中国や南米から渡来した籃胎漆器を研究して作ったものですが、昭和30年頃のきんまの素地は木で作られており、竹ひごで編んでかごのようにした素地は高松の漆器店でも見られませんでした。

明治末期ごろになると業者が粗製濫造したのがきっかけで籃胎は見られなくなったのでした。なら見せてやろうと如真に言われて見せてもらったのが高松松平家に伝来していた玉楮象谷の「彩色きんま 料紙硯箱」だったそうです。これは竹ひごで編んだかご状の素地に漆が塗られていて、竹というのは物差しで使うように、温度や湿度の変化がほとんどありません。

なお、彼の作品には平成17年に作られた籃胎きんま「秋彩の箱」　があります。この作品はMOA美術館にて所蔵されています。