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山下義人という漆芸作家をご存じでしょうか？山下義人という人はもともと手先が器用で、高松工芸高校に進んだ後、漆のことは全く知らなかったのですが、やってみると意外に楽しく性に合っていたそうです。高校卒業後に彼は1971年に香川県漆芸研究所を修了し、生涯の師と仰ぐ磯井正美に師事します。さらに、1976年には田口善国のもとで学び、彼に師事した理由はたま訪れた展覧会において彼の作品「水鏡蒔絵水指」を見たことで大変衝撃を受けたためです。

これら二人の人間国宝のもとで彼は技術的な指導をほとんど受けませんでしたが、教わったことはどういった美を求めるかによって二人の背中と作品を見て漆芸かとしての美学を学ぶことでした。後になって彼は自宅アトリエを美国工房と呼んだのは二人の名前から1文字ずつとったからだそうです。

1981年になると香川県漆芸研究所工芸指導員となり、後進の育成に努めつつ製作活動をし、1994年には第41回日本伝統工芸展に「きんま蒔絵食籠 水の音」を出店して朝日新聞社賞を受賞します。それからも数多くの賞を受賞しており、また2000年から2004年には金毘羅宮の平成大遷座祭りにおいて桜樹木地蒔絵の復元、監修と行って文化財修復分野においても成果を上げました。さらに、2013年には重要無形文化財きんま保持者に認定されています。

彼のきんまの魅力というのは、水紋や月、虹、星、炎、石橋や雲といった自然をモチーフにして作った斬新な意匠と、それらを可能にする濃密な構成力と言えるでしょう。さらに、蒔絵と併用しているものが多く、作品ごとにどんな新しい意匠が生まれるのか楽しみになるような素晴らしい作家だと言えます。

なお、彼の代表作としてはきんま蒔絵盆 「落椿」があり、香川県漆芸研究所蔵となっています。落椿とは椿の花びらが散るということでなく、花が丸ごと落ちることを言います。静かな水面に落ちる椿の花を蒔絵の色調で加飾、盆の立ち上がりの縁には水紋をきんまで表現しているのが特徴的です。