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漆芸家の北村昭斎という人についてここではご紹介してみたいと思います。彼の家は代々漆の家で、正倉院宝物の修理や復元にも大きな功績を残しており、彼自身は東京芸術大学漆芸科で学んだあと、数年工業デザインを行ったのち、漆工芸の道を歩み始めました。彼は正倉院宝物や、第一級国宝復元模造を手掛けるいっぽうで、自分自身の製作活動も、と二つのわらじをはきながら両方で大きな成果を上げています。というのも淡々としかもたゆまず努力を積み重ねているからでしょうね。

アジアの様々な地域に伝えられた漆文化は日本でも美しい世界として広がり、心を惹き込む深い黒や、華やかな朱色、落ち着いた雰囲気の拭漆など、漆の色合いはそれだけでもじゅうぶん魅力的です。ましてや蒔絵、沈金、螺鈿などといった技法を施してある質工芸であればなおさらです。北村昭斎という漆芸家から作り出される作品は、伝統を守りながら秀麗で繊細な意匠によって目を奪われるようなものばかり。彼は重要無形文化財保持者に認定されています。

なお、彼は平成6年に選定保存技術保持者の認定を受けていますが、これは文化庁が認定している文化財保存制度の一つで、今まで二つの認定を受けた人はいなかったそうです。文化庁としては前例のないことだったそうです。有形文化財を保存するため、技術というのは作品を製作するだけのものでなく、責任の重いものだということですね。

彼は抱負や感想などをよく尋ねられるそうですが、自分の技術の錬磨と継承をそれまでと変わりなく続けていくだけだと言っています。いろいろな仕事をしてきたうえで、それぞれ印象が深いそうですが、父親とともに仕事をした春日大社の蒔絵の琴の修理、復元模造は大変心に残っているそうです。

なお、彼の代表作としては華菱文玳瑁螺鈿箱というのがあります。これは第45回日本伝統工芸展に出品され、朝日新聞社賞を受賞した作品として有名です。