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手漉き和紙職人である谷野武信氏は植物を煮て溶かした紙料液がまんべんなく広がるよう、細かく揺り動かします。さらに、左手の槽から救った泥と雁皮を山の水と混ぜ、青い和紙を漉きます。

彼の営んでいる谷徳製紙所は西宮名塩地域に伝わっている名塩和紙を作っていて、江戸時代に広まり、当時名塩千軒とも言われていたほどです。ですが、現在残っているのはここを含めて2軒だけで、彼は2002年に工業技術や和紙の分野において人間国宝に認定されました。この名塩和紙とは紙料液に泥を混ぜるのが特徴で、彼は泥に含まれている凝灰岩のアルカリ成分によって、シミやしわがつかず、虫に食われることもないと言っています。100年以上も前に作られたこの和紙を見せてもらうと、ほとんど劣化していないのには驚きます。

原料となっている凝灰岩は近くの六甲山系から採取し、土を細かく砕いて水に溶かし、木綿の布で濾して、水面に浮いてくる微粒子を使います。この凝灰岩を使い分けることにより、青や黄色、白、茶褐色の5色の和紙ができ、水は名塩の山からパイプで運びます。もう一つ大切な原料として紙料液に使う雁皮というものがあります。

一般的なみつまたやこうぞとは違って、人工的に栽培して量産できない植物で、彼の息子である雅信氏は雁皮から不必要な黒皮と甘皮をむきとるのは手作業で、純度の高い紙料液にるつには手間暇を惜しんでいられない。と言います。なお、生産量については1日に70枚ほどで、その理由はどの工程においても時間と神経を使うからです。昔は偽造しにくいということで藩札にも使われ、ふすまや障子、金屏風の下地や金箔打ち紙などに使われています。

円山応挙らの江戸時代の日本画家が障壁画にも用いました。近代以降は洋画家である梅原龍三郎氏が絵具の発色がいいとのことで愛用しており、多くの画家を魅了してきたと言えます。現在では桂離宮や西本願寺、二条城などといった歴史的建造物の修復に使われており、ローマ法王に献上されたこともあるほどです。