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日本人にとって木とはいつも密接な関係にあり、森林資源が豊富なため木で家を建てて木を燃料とし、木から色々な道具を作って今まで暮らしを維持してきたと言ってもいいでしょう。暮らしのありとあらゆる場面でこのような恩恵をもたらしてくれる木に対して、人々は感謝の気持ちを持ち、特に大木には神がやどる神聖なものとして信仰の対象にさえしてきました。

そんな木を精神世界の美しさに昇華されたものが木工芸なのです。木を大事に思って敬い、年輪の１つ１つに美を感じ挑んで作った作品には西洋美術にはないような、日本独特の精神構造があります。岡山県はそんな木の名工を数多く輩出しています。

一人目は近代彫刻界の巨匠とも言える、平櫛田中と、ここでご紹介する大野昭和斎です。彼は指物師の家に生まれ、職人気質あふれる父親から小さい頃より厳しく指導され、持てる技術の全てを伝授されました。さらに、天性の素質を持っていた彼は生涯父以外に誰一人として師匠を求めず、全て独創によって至高の芸術まで到達したのです。

彼は20代の頃に日本画家である柚木玉邨に才能を見いだされ、その後昭和の名工たれとの気持ちを込め、昭和斎の名前を授かりました。戦後になると彼は理解者の斜陽化などにより暮らしが困窮するのですが、やがて一躍注目を浴びる存在となっていきました。

昭和40年になると彼は日本伝統工芸展に初入選し、43年には同展覧会会長賞である最高賞を受賞し、46年からは特待出品となり、木工芸部門での第一人者の地位を確立していきました。昭和52年には岡山県重要無形文化財に指定され、その後59年には独自の杢目沈金技法を完成。国の重要無形文化財の認定を受け、昭和の名工たれという意向そのままに卓越した技術によって新しい木工美を開拓していったのでした。

彼の作品には、黒柿造小箱、蔦砂摺金輪寺茶入、桑造線象嵌重箱、桑造線象嵌箱、桑造宝石箪笥（くわづくりほうせきたんす）、菊文象嵌透風炉先屏風（きくもんぞうがんすかしふろさきびょうぶ）などがあります。